裏切った人を見ていたら、ナイジェルを見落とす。
『プラダを着た悪魔』で、僕が映画館で泣きすぎた理由。
※映画の内容に触れます。
くぼけんとうさこ先生は、僕のビジネス仲間です。
ついでに言うと、週に何回か、深夜から朝方までコンビニを徘徊しながら散歩する仲間でもあります。
文字にすると、なかなか怪しいですね。
警察に職務質問されても、たぶん「未来の話をしていました」としか言えません。
最近、うさこ先生が、右腕だと思っていた女性に裏切られ、かなり落ち込んでいました。
裏切りって、仕事の損失だけではありません。
信頼の床が抜ける感じです。
昨日まで普通に歩いていた床が、急にベコッと抜ける。
そして思う。
「え、ここ、床じゃなかったの?」
怒りもある。
悔しさもある。
けれど、一番あとに残るのは、たぶん虚しさです。
胃の奥に、小さな空きテナントができる感じ。
それを見たくぼけんが、うさこ先生に『プラダを着た悪魔』を観た方がいいと言いました。
その話を聞いていたら、僕まで妙に気になってしまいました。
すすめられた本人より先に、村長が一人で映画館へ行く。
何をしているのか。
村長、そういうところがあります。
主人公、アンディじゃなかった。
昔の僕は、この映画をアンディの成長物語として観ていました。
怖い上司に振り回されながら、若い女性が磨かれていく話。
わかりやすいです。
観客もアンディの目を通して、ミランダの世界に入っていく。
けれど、今回あらためて思いました。
主人公、アンディじゃない。
やっぱりミランダです。
タイトルからして、『プラダを着た悪魔』。
悪魔本人が主役です。
アンディは、ミランダ王国に迷い込んだ優等生。
王国の空気を吸い、鍛えられ、磨かれ、最後は自分の人生へ帰っていく人。
アンディは光った。
ただ、王国そのものではない。
王国の中心には、ミランダがいる。
あの人は、怖い上司というより、悪魔の顔をした国王です。
そして、その国王の横に、ナイジェルがいました。
髪のないメガネのおっさんに泣かされた。
今回、僕を泣かせたのはアンディではありません。
ミランダでもありません。
ナイジェルです。
失礼を承知で一度だけ言います。
髪のないメガネのおっさんです。
その人に、映画館でかなり泣かされました。
隣の人は思ったかもしれません。
「このおっさん、何でそんなに泣いてるの?」
こちらも聞きたい。
僕も自分に少し引いていました。
けれど、想像したら止まりませんでした。
この人は、どれだけの時間をミランダに捧げてきたのか。
どれだけの熱量をランウェイに注いできたのか。
どれだけの才能を、自分が主役になるためではなく、あの世界を続けるために使ってきたのか。
ナイジェルは、拍手の真ん中に立ちません。
主役の椅子も奪いません。
「実は僕が主人公です」という顔もしません。
それなのに、誰よりもランウェイを研究している。
誰よりもミランダの意思を知っている。
ミランダがいない場所で、ミランダの考えを語れる。
僕は今回、ナイジェルをこう見ました。
世界を畳まない人。
右腕は、任命するものではなく、気づくものかもしれない。
トップは目立ちます。
華がある。
名前が出る。
悪魔と呼ばれるほどの迫力もある。
けれど、世界はトップだけでは続きません。
舞台裏で釘を打つ人がいる。
照明が落ちないようにする人がいる。
幕が途中で降りないように、端を押さえている人がいる。
ミランダが国王なら、ナイジェルは番頭であり、神主であり、用務員です。
王国を回し、空気を守り、廊下の電球まで替える人。
こういう人がいるから、世界は翌朝も開店します。
僕は正直、「右腕」という言葉をまだつかみきれていません。
自分より優秀な人なのか。
支えてくれる人なのか。
言ったことを完璧にやる人なのか。
ずっと隣にいる人なのか。
どれも近いけれど、少し違う。
ナイジェルを見て、少しだけ思いました。
右腕とは、気づいた時にはもう支えてくれていた人。
任命する前から見ている。
頼む前から考えている。
こちらが崩れそうな時、場を畳まない。
本人がいない場所で、本人の意思を守っている。
名札を貼るものではありません。
気づいたら、そこにいた人です。
去った人は傷を残す。残った人は未来を残す。
右腕だと思っていた人に裏切られると、人は去った人を見続けます。
なぜ裏切ったのか。
いつからそうだったのか。
どこで見抜けなかったのか。
信頼の床が抜けたままだから、そこを見るしかなくなる。
そこは仕方ない。
痛いです。
虚しいです。
足はまだ宙に浮いています。
ただ、去った人ばかり見ていると、残った人が見えなくなります。
大きな言葉で慰めない人。
表に出ない人。
自分の名前を売らない人。
それでも、舞台の釘を打ち続けている人。
そういう人が、近くにいるかもしれない。
去った人は、傷を残す。
残った人は、未来を残す。
少し呼吸が戻ったら、見たいものがあります。
誰が残ったのか。
誰が世界を畳まなかったのか。
誰が、こちらが泣いている間も、黙って幕の端を押さえていたのか。
まだ幕は降ろしません。
『プラダを着た悪魔』を観て、僕はアンディではなく、ナイジェルで号泣していました。
まさか、あの舞台裏の男にここまで持っていかれるとは思いませんでした。
本当の右腕は、隣で目立つ人ではないのかもしれない。
本人がいない時に、場を守れる人。
本人の夢を、本人の機嫌ではなく、未来として見ている人。
主役が倒れそうな時に、拍手を浴びるのではなく、床を支える人。
右腕だと思っていた人が去ったあと。
本当の右腕は、すでに近くで床を支えているのかもしれません。
そして、その人はきっと、派手な言葉ではなく、こんなふうに言う。
「大丈夫です。まだ幕は降ろしません。」
村長は、そういう人を見落としたくないです。
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くぼけんから「見たほうがいいよ」のメッセージ。
そしてよしなりさんからのメッセージ。
私には、右腕も左腕もいたんだと気づきました。
笑って、泣いて、怒って、また泣いて、結局最後は笑いあう。
いつもそばで支えてくれてありがとう。